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金沢優、3年ぶりの新作「もしなる2」連載中!

「もしなる2」第1部2章.マジカルじゃなくて、フィジカルかも

2、マジカルじゃなくて、フィジカルかも

「ほー、ここが塾ってとこか。なんや、うちが想像しとったんと全然ちゃうな。音楽まで流れてるやん。うち、ハチマキした先生が竹刀とか持って、所構わず怒鳴り散らしてんのかと思うた」

「おい、四葉。あんまりキョロキョロすんなや。関西から出てきた田舎もんやと思われるやろ」

「関西から出てきた田舎もんやん。しゃーないやん」

「なんやと」

その時、スタッフルームにいた私は、表の騒々しい声に気づき、受付の方へと向かった。

本来であれば、来客用に誰か一人、社員が必ず受付に常駐しておかないといけないのだが、今日は授業に入っているアルバイトの二人が病欠になってしまい、その対応にずっと追われていた。こういうドタバタは、裏でしかできない。

そして、受付の前にドカリと座っている中年男性と、その隣で落ち着かなく歩いている、一人の体操服姿の女の子が視界に入った時、私は何か異質なものを感じた。妙な親子が入ってきたぞ。これが私が抱いた、正直な印象だった。

「・・・あの、何かご用でいらっしゃいますか?」

声をかけると、ほぼ同じタイミングで、二人はくるりと私の方に振り向いた。顔や仕草がそっくりだ。

そして、今度はエントランスのドアがバンと開き、一人の女の子が駆け込んできた。

「あっ、ちーちゃん、こんにちは。どうしたの?」

学校帰りなのだろう、制服姿のちーちゃんが、「ハアハア」と息を切らしている。そして、体操服の女の子に向かって、「ちょっとよっちゃん、置いてかないでよ」と声を掛けた。

何だ、ちーちゃんの友達なのか。あ、そう言えば、女の子が着ている体操服は、確か花塚中学校のものだ。ということは、この子の担当は私になる。

「ねえ、由璃先生、これが私が前に言ってた、よっちゃん。夏期講習、受けたいんだって。まだ席空いてる?」

私の声が「え?」と裏返った。そう、ちょうど今は夏休み前の「募集期」と呼ばれる時期で、新規生徒を無料講習や図書カードなどの特典で誘い、正規入塾へと繋げるキャンペーン期間だった。

そのためこの時期は、ちーちゃんはもちろん、この塾に通っている生徒に塾のパンフレットを渡し、学校の友達に届けるよう、個人的にお願いをしている。そして、「もしもお友達を夏期講習に呼んできたら、図書カードを両方にプレゼントするよ」と言い、一人でも多くの生徒を呼び込むのだ。

そして、ちーちゃんからはよく、「よっちゃん」という友達の名前が挙がっていた。しかし、その子はとにかく勉強が大嫌いだという話だったので、私は来る見込みはほぼゼロだと思っていた。

ただ、この「よっちゃん」という子は、ちーちゃんの一番仲のいい友達らしい。何でも去年、関西から転校してきて、ソフトボール部に入った途端、いきなり一年生でレギュラーを獲得したスーパーガールだという話だ。

加えて、顔も可愛く、言動も面白いので、同級生はもちろん、上級生からも一目置かれているとも聞いていた。そうか、この子がその噂の「よっちゃん」か。ようやく本物に会えた。少し感動でもある。

「あんたがいつもちーちゃんが学校で言うとる、由璃先生って人か。ようやく会えたわ。なんや、思ったより、えらいちっこいな」

どうやらそれは、向こうにとっても一緒だったようだ。でも何なの、この上から目線。

「ずっと彼氏おらんそうやから、どうせブッサイ顔しとるんかと思ったら、なんや可愛いやん。性格の問題ちゃうか?」

「は?」

慌ててちーちゃんが「ちょ! ちょっと、よっちゃん! やめてよ」と止めに入った。

私はちーちゃんを無言で睨んだ。きっとこの子、私がプライベートで喋ったことを、学校でも言いふらしているに違いない。今までずっといい子だと思っていたのに、何て子だ。今度、絶対に宿題を増やしてやる。

「ご、ごめん、先生。まさか、よっちゃんが塾に興味示すとは思わなくて。今日たまたま学校で塾の話になって、講習は無料で受けられて、図書カードも千円分もらえるみたいなこと言ったら、『ほんなら今日、親と一緒に行くわ』みたいな話になって」

なんなんだ、その軽いノリは。もう少し、深く考えてからにしてほしい。

「善は急げ、言うやろ。どうせ親父もずっと暇しとるんやし」

「暇ちゃうわ。やめえ、そんな無職みたいな言い方」

「無職やんけ。先月会社、クビになったやろ」

「クビちゃうわ。こっちから辞めたってん、言うてるやろ」

「そんなん、ホームラン打たれたピッチャーが、『打たしたってん』言うとんのと変わらんやろ。負け惜しみ言うなや」

「なんやと」

ヤバイぞヤバイぞ。子も子だけど、親も親だ。

本来だが、無料講習に図書カードのプレゼントとなると、よっぽど勉強が嫌いでない限り、受けてみようかなと考えるのが普通だ。

しかし、ここでネックになってくるのは「親の存在」である。そう、子供だけでは契約はできない。そこには保護者の承諾もあり、そして塾に電話をして面談のアポを取り、講習の手続きを行う。

こういう何重ものプロセスが挟まるので、たとえキャンペーン期間であっても、申し込みがあるのは一日せいぜい二、三件がいいところだ。やはり、無料とはいえど、どの家庭も気軽に申し込みには来ない。

しかし、この親子は今日講習の話をして、アポなしでそのままここに手続きに来た。今までに私が聞いたこともないスピード感である。色々と常識が通用しなさそうだ。

「なあ、四葉から聞いたんやけど、夏期講習っていうんはあれか? 無料で受けられるってホンマか? ほんで、図書カードまでもらえるんやな」

「あ、は、はい」

大人同士の駆け引きが始まる。私は思わず身構えた。

「これは確認やけど、別にこの塾に入る必要はないんやな」

「! ・・・」

初めからいきなりこんな直球を投げてくるとは。もちろん、その通りではあるが、あくまで講習の無料講習と図書カードは、二学期以降も継続してこの塾に通ってもらうための「呼び水」である。なんとか講習を気に入ってもらい、もしも子供が「楽しかった、勉強が分かるようになった」と言えば、「二学期以降も通いませんか」という、前向きな話も保護者に切り出せる。

もちろん、保護者もその点は薄々分かっているため、たとえ初めから正規入塾させるつもりがなくても、「ひとまず受けさせてみて、本人が気に入れば」と結論をぼかして講習を受けさせるのが普通なのだが、第一声で「入らなくてもいいんだな」は、正直、反則もいいところだ。

「ほんならうちらが損することは何もあらへん。得ばっかりや。受けさせたるから、はよ手続きしよか」

「あ、は、はいっ」

もう、そう返すしかない。しかしその瞬間、私は「あっ」と声が漏れた。そう、あともう15分で授業が始まってしまうのだ。もしも今から手続きをすると、説明などで少なくともあと30分は掛かってしまう。どうしよう。

ひとまず私は、受付表に名前や連絡先などを記入してもらうように伝えて、スタッフルームへと駆け戻った。すると、後輩社員の砂川大翔君、通称『砂ちゃん』が心配そうな顔で私を待っていた。

「大丈夫ッスか、若松さん。直来ッスよね、今の」

「そう、どうしよう。今から授業なのに」

ちなみに「直来」とは私たちの社内用語で、「直接来た、アポなし客」のことである。

もちろん、「また日にちを改めてから、ご来訪下さい」と帰すこともできるのだが、「直来」を帰してしまうと、「やっぱり行くのはやめにした」となる可能性もありうる。

そして、もしもそうなれば、後から教室長の笠原周一さんから説教をくらうのは目に見えている。そう、この塾のモットーは、「一度食いついた魚は逃すな」である。

ちょうど今、笠原さんは全体会議で校舎にいないが、社員は不在時に校舎に何があったかを伝える報告義務があるため、「誰も来なかった」と後輩の砂ちゃんを前に、嘘をつくわけにもいかない。であれば、やはり何とかしても、手続きだけは済ませておきたい。

「あの、僕、授業に入れますよ」

「え?」

「実は次の時間、どっちも生徒がお休みになっちゃって。空いちゃうんスよ」

「え! 本当?」

「具合が悪いって、さっきが電話きたんスけど・・・絶対にズル休みッスよ、あいつら」

そう言って、砂ちゃんは窓から外を眺めた。恐らく、遊びに行っている生徒たちを想像しているのだろう。

ちなみにこの塾は、振替が効かないので、滅多に生徒は休まない。そう、親が絶対に許さないからだ。中には39度の高熱でも行かせる親もいるくらいである。

ただ、理系の砂ちゃんは、よく高校数学を担当するのだが、高校生は欠席のハードルが低い。というのも、塾代も自分のバイト代から出していることもあり、小・中学生に比べ、自由度が圧倒的に高いのである。

しかし、私は不謹慎だが、心の中で「やった!」と叫んだ。それに、社員の砂ちゃんであれば、安心して自分の生徒を任せられる。私は砂ちゃんに生徒ファイルを預けて、大まかに進度の説明をし、受付へ戻った。

「なんや、もしかして、都合悪かったんかいな」

父親の方からそう尋ねられたが、私は営業スマイルで「いえ、全然」と返し、受付に座った。来る前に、一本だけ電話を掛けてくれればよかったのに。もちろん、それが私の本音だった。

一方、女の子の方は、父親の隣で落ち着かない様子で座っていたが、ちょうど流れていた有線の音楽に反応して、「たとえば一言『ダメ』だって 僕にでも吐き出してしまえば~♪」と小さくハモり始めた。

この歌は確か、山崎あおいの『ふたりで歩けば』だ。歌える、ということはよく知っているのだろう。歌が好きな女の子に違いない。

 

私は「さて」、と心の中で呟き、気合を入れ直した。そう、ここからだ。たとえ「塾には入らない」と今は明言していても、何とか成績や受験などの真面目な話に持っていき、正規入塾の必要性を説かないと。そう、子供の将来の話をすれば、情が動かない親などいない。

すると、「じゃあ、よっちゃん。私、授業があるから、もう行くよ」とちーちゃんが女の子に声を掛けた。

「おう、頑張ってこいよ。誰かにイジメられたら、助けに行くで」

「ないよ、塾にイジメなんて(笑)」

そう言って、ちーちゃんは私の耳元に「手強いと思うけど、頑張って入塾させて」と呟き、奥の教室へと駆けて行った。やれやれ、だ。

しかし、私はちーちゃんが連れてきた友達、というところに強く惹かれるものがあった。というのも、ちーちゃんがここに入塾してからというもの、ただの一度も友達を連れてきたことなどなかったからである。

ちなみにちーちゃんはこの子と同じソフトボール部だが、ずっと補欠で、試合にもまだ出たことがないらしい。とても大人しく、目立つタイプではないが、優しくて、本当にいい子だ。

学校で定期試験の予想範囲が出たら、真っ先にプリントを塾に持ってきてくれるし、学校の様子も詳しく教えてくれる。私が花塚中学校について詳しいのは、ほぼちーちゃんのおかげである。

そして友達が塾に入ると、いい面が沢山ある。担任の生徒数が一人増えることで、営業成績が上がるのももちろんだが、何よりも既存生の「退塾防止」にも繋がるのだ。

友達同士で通うことで、何倍も通塾が楽しくなり、連帯感が生まれる。そのため、ちょっと成績が落ちたくらいで、塾を辞めることはまずなくなる。塾のマニュアルには、「仲良しグループをがっつり囲もう」という項目があるくらいだ。

そのため、ちーちゃんが塾にもっと通いやすくなるためにも、頑張ってこの父親を説得しないと。私は記入してもらった受付票を受け取った。

それを見ると、女の子の名前は「熊田四葉」とあった。そして、父親の方は「熊田雅人」というらしい。

「なあ、ここはあれか。テストみたいんはないんか? 講習受けるんに」

「はい。特にそういったものはございません」

「おい、よかったな、四葉。あったら受けられんかったで、お前の頭じゃ」

「その頭はあんたから丸ごと引き継いでんねんで」

「なんやと」

私はゴクリと唾を飲み込んだ。一体この子は、どれくらいの学力なんだろう。正直なところ、基礎が全く入っていないと、教える方だってかなり苦労する。

「ほんでさっきの話の確認やけど、ホンマに夏期講習ってのは、無料で受けらるんやな?」

「あ、はい。無料です。どなたでも。一教科だけなら」

「そうやって恩を売っといて、後でしつこく勧誘されても、うちは絶対に動かんぞ。本当に、それでもええんか?」

「あ・・・は、はい。もちろん、講習だけ、という方もいらっしゃいますので」

「ええねんな? うちは絶対に絶対に、入らんで。予告ホームランや。つまり、あんたらは必ず損をするわけやで? それでも投げると言うんか。バックスクリーンに運ばれると分かっとって」

これはきつい。流石に、そこまで言わなくても、だ。そこで私は、「教材費だけは頂戴しております」と返した。

「ほーら、来たわ。どうせ高いんやろ。そこで元を取るつもりやな? 何ぼや。10万か? 100万か?」

「・・・え、と・・・税込みで1,500円です」

「な、なんやそれ。もっとボラんかい。何やっとんねん。しばくで」

保護者に「しばくで」と言われたのは初めてだ。しかし、驚きの安さだったのだろう。確かに私も、もう少し上げてもいいと思うが、あくまでこの価格設定は、新規生徒が受けやすくするためのものである。私は、「そこで利益を求めてはいませんので・・・」とマニュアル通りの返しをした。

「ふん、見上げた教育精神やな。でも、騙されへんからな。情では熊田家は動かへん。リリーフも鉄壁や」

「は・・・はあ」

「あ、もしかしてあれか。施設費とかとるんやろ? 違うか?」

「い、いえ。教材費だけです、ご負担分は。それに、講習中は自習室なども使い放題です」

「はあ? 正式に入っておらんのにか」

「あ、はい。講習を受けられている間は、正規入塾されていなくても、私たちの生徒、という扱いになりますので」

「ほほー。そいつはいい。おい、聞いたか四葉。これでお前、夏休みの間はずっとここに来れるらしいで。冷房も効いとるし、天国みたいなところや、ここは。こりゃ、父ちゃんも夏期講習受けなあかんな」

「あんな、父ちゃん。託児所やあらへんで」

「託児所みたいなもんや。どうせお前、やることもなくて毎日部活以外はフラフラしとんねんやから、ここでずっと勉強しとけ。ええ機会や。頭ようなって、東大でも目指したらどうや」

「父ちゃんの子供が東大なんかに行けるかい。トンビが鷹産むわけないやん」

「なんやと! この俺の、どこがトンビや」

「脳みそサイズちゃうか?」

「なんやと!」

目の前で繰り広げられる親子の小競り合いに、私の口はいつの間にか半開きになっていた。今まで沢山の親子を見てきたが、やはり一番インパクトがある。

「まあ、とりあえずや。その値段で全部なら、熊田家には何の異論もないわ。申込用紙はどれや。サインしたる」

「あ、えっと。その前に、受けられる教科を決めて頂かないと」

「何受けるんや? 四葉」

「そんなん、英語に決まっとるやろ。それしかあれへん」

「姉ちゃん、英語らしいで」

「姉ちゃん言うなし。スナックちゃうで。真昼間から酔うとんのか」

「なんやと」

それからまた小競り合いが始まり、ウンザリしたが、私はタイミングを見計らって、「あの、ちなみに数学とかはいかがでしょうか? もう一教科追加しても、かなり安い値段で受けられるんですが」と割って入った。

本来だが、個別指導塾に通っている生徒のほとんどは、英語と数学の2科目を受講している。というのも、この二教科は、「積み上げ科目」とも呼ばれ、基礎が入ってないと、新しい知識が積み上がらないのだ。

そのため、新規生徒には必ず定番の「英語・数学」の二科目受講を勧めるのがマニュアルとなっている。さすがに二科目は無料とはいかないが、それでも正規の授業料の三分の一で受けることができるので、申し込む生徒も多い。

しかし、たとえ安くても有料となれば、当然父親の方が難色を示すと思ったのだが、真っ先に「いらんわ、そんなもん」と断ったのは、何と女の子の方だった。

「数学なんか勉強して、何の意味があんねん」

「え? で、でも今後、受験で必要になってくるよ?」

「ええねん、そんなん。どうでも。うちは英語だけやりたいねん。あとは眼中にあらへん」

思った以上にハッキリとした口調だったので、私はこれ以上、聞くことを諦めた。

ただ、私が今一番驚いたのは、この子は全くもって、受験に興味がないということだ。今の一言で、それが分かった。

では、それなのに、どうして講習を受けようと思ったのだろう。そして、英語には何か特別なこだわりでもあるのだろうか。それを聞きたかったが、今はそのタイミングではない。講習中、仲良くなった時にでも聞けばいい。それよりもまず、今は父親と手続き的な話を進めないと。

「それでは、講習を受けられるに当たって、この塾の説明をさせて下さい。どういう指導方法をしているか、他の塾と何が違うか。あとはもしも仮になんですが、正規入塾されたとしたら、二学期以降のプランだとか」

そう、ここからが営業力の腕の見せ所である。

しかし、父親の方は私を遮る仕草をして、「あー、ええねん、ええねん。そういうんは。俺が申し込んで、このアホが受ける。それで終わりや。それ以上もそれ以下もあらへん。どうせ入らんのやから」と、ピシャリと締めた。

うーん、思っていた以上に、鉄壁だ。付け入る隙が全くない。

「なー、父ちゃん、一体、何回アホ言うねん。さすがのウチも凹むわ」

正直なところ、全く凹んではいなさそうだった。

「ほんで、あんたが教えてくれるんか?」

「え?」

いきなり女の子の視線が突き刺さり、私は思わず言葉が詰まった。

講習は、誰が誰を教えるかは、もちろんこの段階ではまだ決まってはいない。しかし、基本的に花塚中学校の新規生徒は、私が講習で持つようにしているので、恐らく自分が担当になるだろう。

「うちな、学校でやっとる英語、全っ然分からんからな。ホンマ、驚くで。とりあえず、今のうちから体力つけとき。メンタルの前にマジカルや」

「あ・・・うん。でも、大丈夫だと思うよ。今まで沢山の子を教えてきたから」

「ハン、うちのレベルをナメんなよ。バックスクリーン三連発、どかーん、どかーん、どかーんじゃ」

私はゴクリと唾を飲んだ。予告ホームランだ、これは。

「あ・・・でも・・・それって、フィジカルかも」

「何や?」

「だから、さっきの。マジカルじゃなくて、フィジカルじゃないかな。うん。絶対。マジカルだと、文脈の意味が通じないもん」

すると、女の子の顔が若干赤くなった。流石にこれは恥ずかしかったか。

父親も隣で「マジカルとかアホもいいとこや。ホンマ、親の顔が見てみたいわ」と、笑っている。カオスだ、カオス。そして女の子は、「ハン、口だけは一丁前やな」と私に小さく負け惜しみを言った。

「こら四葉。お前、人に向かって失礼やろ。誰にそんな口の利き方習うてん」

「ついさっき、姉ちゃんって呼んだん、忘れてもうたんか。やっぱ酔うとんのか」

「なんやと」

ヤバい、また始まりそうだ。

「あんな。せめてお前もアルファベットくらいはちゃんと書けるようにしてから、講習受けた方がええで。父ちゃん、前回のテスト見たんやぞ。アルファベットの『b』と『d』が逆向きで、バツになっとったやろ。『bed』が『deb』ってウケ狙っとんのか?」

「あんた、何、勝手に人のバッグ漁ってんねん!」

「ワンピースの14巻探しとってん」

「入っとるか、ボケ!」

私はまた、ゴクリと大きく唾を飲み込んだ。一体、どんな授業になるんだろう。もはや、想像すらできない。

(次回「3、カオスの夏期講習」に続く)

日本人が学んできた「英語」とは何だったのか?


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