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新作「もしなる2」連載中!

「もしなる2」第4部4章.「ボタンの掛け違い」

4、「ボタンの掛け違い」

「じゃあ、ここの文章・・・訳してみて。『Tom is playing with his friends in the park.』」

「えーっと、『トムは公園で友達と一緒に遊んでいます』」

「・・・うん、それで大丈夫」

「やったあ!」

夏期講習の後期日程が始まり、私は再び塾で、子供たちに英語を教え始めていた。そして今、両隣で指導しているのは、どちらも中学2年生である。

「ねえ先生、これ、どういう意味?」

「え?」

「『The cars had an accident.』って、『その車たちは、事故を持っています』?」

「ええっと・・・『車は、事故を起こした』って、日本語訳ね」

「あ、そういうことか。『have』は『起こす』か」

「あ、う・・・うん」

ー何をやっているんだろう、私は。「have」を「起こす」で覚えたら、ダメじゃないの。後で使うときに、間違えちゃうじゃない。

大きく私は息を吐き、顔を上げた。教室内を見ると、見慣れない顔で溢れていた。そう、ほとんどが無料体験でやってきた、新しい生徒たちである。

ちなみに夏期講習は、塾業界にとって、新しい生徒が大量に入塾してくる、一年の中で一番の「書き入れ時」だ。

普段入塾を検討している子は、こうした夏休みなどの「暇な時期」に、初めて実行に移す。そして親も、家でぐうたら過ごしている子供たちの姿を見て、焦り始めるのも、ちょうどこのタイミングとなる。

こうして塾業界にとって、夏休みは一年の中で、一番忙しいとも言える。そして私たちは子供たちを、無料体験の授業で満足をさせ、それ以降の通塾の契約を勝ち取る。これが毎年の流れだ。

そして、体験に来る子は基本的に、基礎が崩れている子が多い。特に英語と数学は、土台がなければ、新しい単元が全く入らない。そのため、どうしても教える科目は、その2科目に集中することになるのだが、こんなにも私が「英語の教え方」に疑問を持ったのは、この仕事に就いてから、初めてのことだった。

「いいか? 学ぶのは日本語なのか、英語なのか? この時代、『育んでいくべき音』はどっちだ? 【ringo】か【ˈæpl】か。お前は一体、英語を使って、何をしたい? 英語を口から出したいから、【ˈæpl】と出したいから、ここに来ているのではないのか? 翻訳家になりたいのなら、今まで通り黙々と文字を日本語にして、『リンゴ【ringo】』で終わってろ、明治時代みたいにな。それで構わん。しかし、英語の話者になりたいのであれば、【ˈæpl】でそのまま覚えて、何度も、何年も、口にし続けなくてはいけないだろうが。ネイティブはそうやって、英語の話者になったのだろう? なぜネイティブと同じ道を辿ろうとしない? なぜ大昔の日本人が敷いたレールの上を走ろうとする? いいか? 話者になりたければ、『リンゴ【ringo】』に変換して、そこで終わるな。単純に『2つの大きな作業』を残すことになるぞ。いや違う、2つではなく、『4つ』か」

そう言えば、吉原さんは以前、こんなことを言っていたが、一体何のことなのだろう、「4つの作業」って。

「ねえ先生、次は何をすればいい?」

「あ・・・うん。じゃあ次、その問題を解いておいて」

「分かった!」

私の指示に従い、生徒はガッツリと長文を全て視界に入れ、「えーっと、トムはその時、友達と一緒に」と、後ろから訳し始めた

ち、違う、違う、違う。ぜ、全然、違う。

「Some days the sky looks blue.」

そう、真希ちゃんはこんなことを何一つしていなかった。あの子は、

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(次回「5、グッバイに続く)

「英語」という「教科」を、「言葉」に変える


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