日本語に切り替えず、英語のまま理解する
金沢優、3年ぶりの新作「もしなる2」連載中!

「もしなる2」第2部7章.英語を英語で理解し、英語で考える方法

7、英語を英語で理解し、英語で考える方法

「いいか、まずは靴がなくなった女子生徒の親御さんに、電話で事情を説明してだな、」

松尾さんは先ほどからずっと、廊下で通話中である。そう、先ほどケータイに突然、電話が掛かってきたのだ。

「女の子は大丈夫か? 泣いていないか?」

元々、地声が大きいので、話の内容が丸分かりである。恐らく松尾さんの管轄のある校舎で、生徒の靴が無くなったのだろう。よくあることである。誰かが間違えて履いて帰ったに違いない。

もちろん、塾には学校のように、生徒一人一人の靴箱などはない。入り口には病院のように、平置きの下駄箱が用意されているのみである。

もちろん生徒は自分がどこに置いたかは覚えてはいるが、ほぼみんな、学校帰りに塾に寄るので、似たような靴がズラリと並ぶことになる。そのため、数ヶ月に一回は生徒が間違えて他人のものを履いて帰ってしまう、という事態が起こる。

もちろんそれは生徒の自己責任だが、塾として無視するわけにもいかない。そのため、まずは保護者に電話をして、事情を説明し、代わりの靴を用意したり、間違えて履いて帰った子を突き止めないといけない。

そしてその際は、一度ブロック長に今後の対応を確認することが、マニュアルとなっている。トラブル系はほんの些細なことでも、上司への報告義務があるのだ。

「欧米だったら、屋内に入っても靴を脱ぐ習慣がないので、こんなハプニングは起こらないんでしょうね」

そう言って有紀さんはクスクスと笑った。恐らく通話の内容から、何が起きたのか、想像できているのだろう。

私は期せずして、有紀さんと二人きりになったことに、少し緊張した。そう言えば最近、こんなふうにドキドキすることなどなかったっけ。

加えて、だ。有紀さんなら、私が今まで英語について疑問に思ってきたことを、解いてくれるかもしれない。

私は早速、今日から社内で英会話研修が始まり、「どうして日本人は中高6年間も英語を勉強しているのに、話せるようにならないのか」についてのプレゼンテーション大会があったことを、有紀さんに伝えた。

「今日の議事録はありますか?」

そう言って、有紀さんは今日、私がメモを取ったノートを受け取り、パラパラと見始めた。

・カタカナ発音が問題
・英語を話す環境がないから
・英語を話す必要性がないから
・英語を始めるのが遅すぎるから
・圧倒的に学習の時間が足りていないから
・母国語の習得があやふやだから
・授業が楽しくないから
・英語嫌いや英語アレルギーのせい
・ネイティブを前にしてアガってしまう国民性
・ネイティブ講師の数、授業が少ないから
・「恥の文化」が邪魔をしている
・本当は話せるのに、自信がないから
・そもそも、「話す内容」がないから
・受験にスピーキングがないから
・使わない英文ばかりで、スラングなどを習っていないから
・教師が英語を話せないから
・間違うことを恐れているから

どうなんだろう、ここに有紀さんにとっての正解があるのだろうか。

すると有紀さんは、「うーん、一部同意できるものもありますが、それが全てだとは思いません」と答えた。

「どうして日本人が英語を話せないのか、という問題は、かなり複雑に原因が絡み合っているんですよ」

「はあ・・・」

「ただ、強いて一言で言うのであれば、日本人は『時代の狭間に落ちてしまった』というところだと思います」

「え? 狭間・・・ですか? 時代の?」

「はい。つまり、大昔は別に『英語を話せる必要性』なんてなかったんです。話せるようになりたければ、留学なりをして、『個人で環境を見つけて、達成するもの』でした。学校は『話せる』に向けての責任は、一切負わなくてもいい」

「しかし今は『自国内で英語を話せるようにならないといけない』時代になりました。『英語教育の目的』が変わったんです。それなのに、学校では『大昔と同じ教え方』が、未だに引き継がれているんです。時代は変わったのに、『教え方』が動いていない。テキストや教材も、昔と同じものが使われています。学校で英語の成績が良かったのに、社会に出た途端、学んできた英語が全然使い物になっていないのは、そのためです」

大昔と同じ教え方、とは一体どういうことなのだろう。

「ちなみにマジックの世界にこういう言葉があるのをご存知ですか? 『マジシャンが魔法の呪文を唱えた時にはもう、トリックは終わっている』」

「・・・い、いえ。初めて聞きました」

「日本人は全員、義務教育が終わった後に、『どうやったら英語って話せるようになるの?』とそこで初めて考えます。つまり、それまで『話す』を全く想定せずに、学んできたことになります。しかし本来これは、ありえないことなんです。なぜなら、目的地を考えずに進んできたわけですからね」

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(次回「8、光と影の時代」に続く)

日本人が学んできた「英語」とは何だったのか?


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