日本語に切り替えず、英語のまま理解する
話題作「もしなる」試し読み

「もしなる」でご紹介した楽曲集

英会話小説「もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか」で3曲の楽曲を紹介させて頂きました。

読者さんに世界観がより伝わるように、そしてまだ「もしなる」を読まれていない方には興味を持ってもらえるように、そちらをYoutubeで紹介させて頂きます。

「もしなる」で使用した楽曲の紹介

LINDBERG 「OVER THE TOP」

その話は何度も聞いたことがある。『日本語は胸式呼吸』で、『英語は腹式呼吸』だ、と。しかし、今までずっと胸式で話してきたのに、いきなり複式で話すようになることなんて、果たして可能なのだろうか。

有紀君は「次回、具体的な発音練習のやり方を説明しますね」と私に約束してから、レッスンの終了を告げ、次の曲を探し始めた。そして、私が懐メロの中でも大好きなリンドバーグの中から曲を選んでいる有紀君は、やはり私のエンジェルである。

そしてモニターに『OVER THE TOP』のタイトルが浮かび上がり、有紀君は伸びのある声で歌い始めた。その歌詞を聴いていると、職員室に質問にいった、あの時のピュアな気持ちが今、ひょっこりと帰ってきたような気がした。

そう、あの時、ネイティブみたいな発音ができると信じて疑わなかったじゃないか。生田先生の言葉に、私は勝手に限界を決めてしまっていたのかもしれない。「どう頑張っても無理だ」と。

有紀君が曲を歌い始めた。

そしていつの間にか私も、お腹の底から声を出して歌っていた。懐かしくて、本ッ当にいい歌。(文庫本P177)

岡本真夜さん「TOMORROW」

先ほどから有紀君はずっと歌いっぱなしである。

しかし、すごい。岡本真夜さんの『TOMORROW』を歌詞も見ないで歌える歌える26歳の男の子なんて、日本中探しても、この子くらいじゃないだろうか。

そう、有紀君は若い割には、沢山の歌を知っていた。先ほどからずっと懐メロのオンパレードである。きっと本当に歌が好きなんだろう。母の影響で懐メロが大好きな私としては、ますます有紀君のことが好きになった。(文庫本P171)

カーペンターズ「I need to be in love」

そしてその後、有紀君は、私が大好きなカーペンターズの話をしてくれた。1970年代を中心に『イエスタデイ・ワンス・モア』や『トップ・オブ・ザ・ワールド』などの代表曲を世に送り出した、アメリカ出身の兄妹のポップスデュオである。

「僕は洋楽の歌詞の日本語訳があまり好きじゃありません。なぜなら色褪せている感じがするからです」

確かにそれは思う。英語の歌詞の日本語訳はどこか表層的に感じる。

「ちなみに、カーペンターズの中で一番好きな曲は何ですか?」

「えっと・・・『青春の輝き』って曲なんですけど・・・分かりますか?」

「原題だと『I need to be in love.』ですね。カレン・カーペンター自身、一番好きだって言っていた曲ですよ。つまり、本人の気持ちと一番合っていたんじゃないかなって、僕は思います」

すごい、有紀君。やっぱりカーペンターズにも詳しい。

「僕はまず、その邦題がおかしいと思っています。だって、あの歌はそんなにキラキラした内容じゃないんです。『I need to be in love』でしか表現できません。それだけで伝わってきませんか? カレン本人の孤独や痛々しさが」

私は以前、動画で見たカレンの姿を思い出した。摂食障害に陥り、それが原因で亡くなったのは、確か彼女が32歳だったはずだ。「『love』がないと、自分はダメなの。生きてはいけない」。そんな気持ちだったのだろうか。

「歌詞を完璧に日本語訳できたとしても、本人の気持ちは掴めないと思うんです。そうではなく、一つ一つをイメージして、同じものを見るんです。それこそが真の英語力だと、僕は思いますよ。テストの点数なんかより」(文庫本P197)

「それでは今日は、助動詞の復習からします」

その翌日、教壇に立っていた私は、指導中に何度も軽い目眩に襲われた。というのも、昨夜は目が冴えて、一睡もできなかったからである。

自分はこれから一体、どうやって英語を教えていけばいいのだろうか。少なくとも今までのやり方では、生徒は報われない。将来、私みたいな英語の使えない人間になってしまう。大海原の中に漂流してしまう。

眠れなかった私は、ふとカーペンターズのことを思い出し、英語の歌詞と一緒にCDを聞いた。

すると、有紀君が言っていた通り、それは『青春の輝き』という邦題と全然マッチしていなかった。

そして同時に、これは日本語に訳せないと思った。訳してはいけないと思った。『I need to be in love』で理解しないといけないんだと思った。

私は何度も繰り返し聴き、歌詞からカレンの気持ちを考え、情景をイメージした。すると、今まで何百回以上も聞いてきたはずなのに、これまで見えなかったものが目の前に現れて、心が震え、英語の世界の奥深さを実感した。これこそが真の英語だと思った。言葉だと思った。他界したカレンの気持ちがジンジンと響いてきた。

「この文章を訳せる人はいますか?」

黒板の英文を指差して私は問いかけたが、反応はなかった。そして、気怠い雰囲気の教室を見回しながら、私は思った。

英語の文字を一語一語日本語訳して、日本語順に並び替えたら終了。まるで切り身の魚を並べているみたいな。生徒は黙々と黒板の文字を書き写すだけ。聞かないし、話さない。何も感じない。何もイメージしない。英語の解剖だ、これは。死んだ英語を、私は今、生徒たちに教えている。今日も、そしてこれからも。

一体、何をしているのだろう、私は。(文庫本P216)

こちらで「もしなる」の試し読みができます。

「もしなる2」で紹介予定の楽曲

今、次回作「もしなる2」を書いています。前作と同じように、楽曲を絡めていきたいと思っています。

以下、話に組みたいと思っている、楽曲です。いい曲ぞろいなので、よければ聞いてみて下さい。

ココロオークション「蝉時雨」

山崎あおいさん「ふたりで歩けば」

秦基博さん「ひまわりの約束」

THE BLUE HEARTS「情熱の薔薇」

ユニコーン「大迷惑」

本名陽子さん「カントリー・ロード」

ザ・ブルーハーツ「TOO MUCH PAIN」

あいみょん「空の青さを知る人よ」

Simon&Garfunkel「A Hazy Shade of Winter」

ジャパハリネット「哀愁交差点」

スピッツ「魔法のコトバ」

never young beach「明るい未来」

TRIPLANE「モノローグ」

SEKAI NO OWARI「Rain」

Priscilla Ahn「I Don’t Think So」

Oasis「Whatever」

平賀さち枝とホームカミングス「白い光の朝に」

XY Isidro「I need to be in love」(原曲:カーペンターズ)

椎名豪 featuring 中川奈美「竈門炭治郎のうた」

カーペンターズ「Yesterday once more」

Ben E. King「Stand By Me」

Toploader「Dancing in the moonlight」

The Wonders「That thing you do」

advantage Lucy 「グッバイ」

なんとか完成に持っていきたいです。現状、7分の3の仕上がりです。(2020/10-26)

前作ファンの方は、乞うご期待下さい。

「英語」という「教科」を、「言葉」に変える


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